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「・・・ここ?」

「うん」

「・・・間違い。じゃないの?」

「ううん」

「・・・・・・」

驚きのあまり、口を開けたまま立ち尽くすコウとマーク。

そんなふたりの横で、なんてことない様子のテティス。

・・・その、テティスの後ろに隠れているセレス。



グレダの森からグレナダの街へ戻ったコウとマークは。

テティスとセレスを、家まで送ることになったのだけど。

彼女に案内されてコウ達が着いたのは。

一般住宅区と呼ばれる、文字通り一般住宅が建ち並ぶ場所。その一角・・・ではなく、

豪奢なつくりの建物ばかりが建ち並ぶ、高級住宅区の。なかでも一際目立つ大きな屋敷で・・・。


大理石で出来た、大きくて、とても豪華な装飾が施された門を前に、4人は立っている。

門の向こう―そもそも、門が大きすぎて、よくは見えないけれど―から、

言うなら城か、宮殿を思わせるようなとても立派な屋根がその雄姿をのぞかせている。

「・・・お城?」

「違うよ、ボクの家だよ」

「・・・や。お城かなんかでしょ。これ」

「ボクの家だってばー」

その門の前でマークとテティスがやりとりしていると。

門が開いて、中からふたりのメイドが現れる。


「テティスお嬢様、おかえりなさいませ!」

メイドはテティスの前まで来ると、深々と礼をしてみせた。

「ただいまー♪・・・あ、セレス君も一緒だよ!」

「そうなのですか・・・?セレス様、いったいどちらにいらっしゃったのです?」

「うん〜?・・・えとね・・・」

メイドにセレスの事を訊かれ、テティスは一瞬戸惑ったような表情をする。・・・と。

「あ!
リエットのお家にいたの!うん、前にボクといっしょにリエットのお家に遊びにいって、

そのときセレス君、リエットの事すごく気に入ったみたいで・・・」

すぐに表情を戻してメイドにそう答える。

メイドは、テティスの一瞬の間に少し疑問を感じつつも、その言葉に納得した様子で。

「そうなのですか。・・・セレス様?どこかにお出かけになられるのなら、せめて一言お声をかけてくださいませね?

お嬢様がたも、私達もいつも心配しているのですよ」

メイドはセレスにそう言うと、テティスの後ろに隠れていたセレスがそっと顔を出す。

「・・・ごめんなさい」

「・・・ともかく、何事も無く無事でよかったですわ」

申し訳なさそうにしているセレスに、メイドは笑顔でそう言った。


(ふいー、ごまかせたぁ)

メイドの反応を見て、ホッと胸をなでおろすテティス。

・・・と、そこにメイドがコウとマークを見て言う。

「お嬢様、この方達は?」

「えっ!・・・あ、この人たちはね」

しまった、というような表情でテティス。ふたりのメイドの表情が少しずつだけれど、曇っていく。

コウとマークの事をどう説明しようか。テティスが悩んでいると、その本人達が先に口を開いて。

「あの俺、コウっていいます。・・・こっちはマーク。俺達はハンターをしてるんです」

「ハンターの方・・・なのですか?」

「はい。その・・・俺達、この街でテティスさんに会って。それで、セレス君を・・・」

「わ!わぁぁぁ〜〜っっ!!!」

と、コウがそこまで話したところで、突然テティスが力いっぱいに叫ぶ。

「!!」「!?」「・・・!?!?」

何だなんだと、全員が一斉にテティスを見る。

「ど、どうされたのですか・・・お嬢様??」

メイドに訊かれて、テティスはかなり慌てた様子で、

「あ、ううん、なんだろう?・・・あははは〜」

「????」

メイドは当然不思議そうな表情のまま(当然だけれど)だったが、

とりあえずコウの話をうやむやにできたので、それでよし。と、テティスは思う事にした。


「あ、あのね。ボク、街で変な人に囲まれたんだよ」

「変な・・・人・・・でございますか・・・?」

テティスの言葉に、ふたりのメイドは顔を見合わせて、それからコウとマークを見て。

コウとマークはいやいやいや、と。二人揃って首を横に振る。

「ち、ちがうよ〜。コウさんとマークさんは、えーと・・・ボクを助けてくれたんだよ〜」

「あら・・・そうなのですか?」

テティスがそう言うと、ふたりのメイドが顔を見合わせて、それからコウとマークを見て。

コウとマークはそうそうそう、と。二人揃って首を縦に振る。



・・・と、まあそんな事で。

その後、テティスの更なる“二人は変な人じゃないよアピール”は少しだけ続いて。

メイドの、コウ達への不審感も無くなったようで。

それなら、お嬢様を助けていただいたふたりにぜひお礼を、とメイドが言うので

コウとマークはテティスの屋敷に招待されることになった。

メイドに案内され、大きなな大理石の門をくぐるとその先には。

これもまた大理石で出来た足場が、奥にかすんで見える屋敷まで続いている。

屋敷まではかなりの距離があるようだったけれど。

それでも、それだけの距離から見ても、屋敷の大きさは十分に感じられる。

その、屋敷までの道の両脇には、とても広い庭が広がっている。

そこには等間隔で、とても大きな噴水が置かれてあって。

そして、そのひとつひとつの噴水を囲むように、屋敷の人間にとても丁寧に手入れされているのだろう、

何色にも色付いた、数多の種類の花たちが無数に植えられた花壇がある。


「すごい庭だな・・・キレイだな」

「お金持ちなんだなぁ・・・あそこに立ってる像、どれくらいするんかなぁ・・・」

同じ景色を見ながら、同じタイミングでタメ息をついて、けれど出てくる感想はふたりっぽいというか・・・。

まるで違うコウとマークだった。

言ってみてからふたりで顔を見合わせて、コウだけ何だか複雑な表情をしていた。


・・・と。

コウは、自分達より前を歩いていたテティスに視線をやる。

(そういえば、テティスちゃんさっき・・・どうしてメイドさんに“あんな事”いったんだ?)

屋敷の門前でのテティスとメイドのやりとりが気になったコウは、本人に訊いてみる事にした。

「ん?な〜に、コウさん?」

「ん・・・いやさ。ちょっと気になってさ」

「何なに〜?」

「・・・その、セレス君を捜しに行く時さ。街を出発する前に一度家に戻ったんだよね?

・・・その時、家の人には何て言ったの?」

「・・・あ。ん〜と・・・あはは〜」

コウの質問に、ばつが悪そうに笑うテティス。

「お、お友達の家に泊まってくるねって」

「・・・やっぱりね。・・・本当の事言ったら絶対許してくれてないよな。だからさっきは・・・」

「あははは。ごめんね、コウさん」

「はははっ。いいよ?・・・結果、こうして目的も果たして何もなく無事に戻ったんだし。

・・・いや、よくはないか。・・・まあ、とにかく。家の人には本当の事は言わない方が・・・」

「いいね。えへへ♪」

コウとテティスは互いの顔を見て笑う。

(・・・そういう事にしておいた方がいいか)

「ん、なになにふたりで何楽しそうに話してるの〜?」

と、そんなふたりのさらに後ろを歩いていた(庭にある高そうな物に目がいっていた)マークが間に割り込んでくる。

「・・・そういうわけだからな、マーク!」

「・・・そういうことだからね、マークさん!」

「・・・。・・・はい??」

コウとテティスに突然そんな風にかえされて、マークは何がそういう事なのかわからなかった。



しばらく歩いて。コウ達は屋敷の目の前に着いた。

門の所からでも屋敷は十分にその大きさを感じられたけれど。

実際目の前にすると、あらためてその大きさと、それからその豪華さに驚いてしまった。

「・・・建てるのにどれくらいかかってんのかなぁ、なあ?コウ」

「・・・恥ずかしいなー、お前。そればっかりじゃないかよ、さっきから・・・。

でも・・・まあ。これだけ立派な屋敷だと・・・なんか変に緊張しちゃうな・・・」

コウとマークが、そんな話をしていると。


「あ、誰か知らないオトコの人がいる!」

高い場所から、女の子の声がした。

コウとマークが声のした方向を見やると、そこは屋敷の2階で、テラスになっている場所で。

そこの手すりから、1人の少女が身を乗り出している。

「おお?またまたかわいい子発け・・・ぐはッ!?」

いつもの調子なマークをコウが無言で蹴り飛ばす。・・・と、その横から。

「ルシオー!やほ〜♪」

「あ、お姉!おかえりーぃ♪」

テティスがテラスの少女に向かって手を振りながら叫んだ。

「ルシオって、もしかして・・・」

コウは、馬車の中でのテティスとの会話を思い出す。と。

「テティスちゃん・・・ふ、双子の妹がいるって・・・言ってたっけ・・・」

コウに蹴り飛ばされて、地面に張り付いていたマークがゆっくりと起き上がりながらそう言った。


「リア姉、お姉が帰ってきた〜!」

ルシオと呼ばれた少女が、バタバタと大きく足音を立てながら屋敷へと入っていく。

「リア姉?」

「ボク達のお姉ちゃん。
『リアナ』って名前だから、ルシオはリア姉って呼んでるの」

「そうなんだ」

「・・・お姉さんもいるのか・・・。なんてこった・・・」

コウは、横でブツブツと何かつぶやいているのを聞き逃さなかった。

「マーク」

「・・・ん?何、コウ」

「・・・拳と足、どっちがいい?」

「んー・・・どっちも遠慮するわ。痛いし」

「そーか」


・・・今日、マークは二度。母なる大地の温もりというものを肌で感じた。気がした。


と、コウとマークの漫才(?)が終わるのと同じくらいのタイミングで。

屋敷の入り口の扉が音を立てて開く。

扉の奥には先ほどの少女ルシオと、見知らぬ女性が並んで立っている。

この女性が、テティス達の姉の、リアナという人なのだろう。

明るく活発な印象の双子の妹とは反対に、物静かで大人しそうな印象をコウは持った。

そのリアナが、テティスとセレスに優しく話しかける。


「おかえりなさい。テディー」

「うん、お姉ちゃんただいま!」

「リエットちゃんの家に行ったのよね、楽しかった?」

「た、楽しかったよ?・・・でね、セレス君もひとりで先にリエットの家に行ってたんだよ」

「そうだったの・・・。セレス?」

「・・・はい」

「みんな、心配したのよ?」

「・・・ごめんなさい」

「・・・。話はまたあとでゆっくりするとして、とりあえずは部屋でゆっくりお休みなさいな」

「はい・・・」


ふたりに話しかけた後、リアナはコウとマークに気がついて。

「ええと、あなた方は・・・」

コウとマークが自己紹介をしようとすると、それよりも先にメイドがリアナに簡単に説明をしてくれた。

「コウ様とマーク様。ハンターの方だそうです。屋敷の外で、テティスお嬢様が大変お世話になったのだそうで。

それでこちらまで案内いたしました」

「あら、そうなの・・・。はじめまして。私、テティスの姉のリアナといいます。

妹がお世話になったそうで・・・」

リアナが、ありがとうございます、と深々と頭を下げる。とても丁寧な応対に、コウ達も思わず頭を下げる。

「あ、いえとんでもないです・・・」

「あの。おふたりとも、よろしければ屋敷にご招待させていただきたいのですけど。いかがですか?

妹の事でお礼もさせていただきたいし・・・」

屋敷の入り口まで来てはいたものの、そこまでは・・・と、コウが返答に悩む。・・・と。

「いいんですか??いや、こんな立派なお屋敷は初めてで、もう興奮しっぱなしですよ!」

「あらあら、ふふっ」

初対面のリアナに、えらく慣れた感じで接しているマーク。

マークは招待される気マンマンのようだ。

(こ、こいつは・・・。いつもの事だけど、少しくらい遠慮してみせるくらいは・・・)

はあ、とタメ息をつくコウだったけれど、まあ断る理由があるわけではないので。

「・・・それじゃあ、ご好意に甘えさせてもらいます」

と、リアナにそう答えた。




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